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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)3088号 判決

原告 大洋商事株式会社

右代表者 内田純一

右代理人辯護士 東里秀

被告 株式会社大島商店

右代表者 西郷里久男

代理人辯護士 工藤素一

主文

被告は原告に対し金二十八万四千円及び(一)内金十七万二千円に対する昭和三十一年三月十六日から完済に至るまで年六分の金員、(二)内金十一万二千円に対する同年三月二十四日から完済に至るまで年六分の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金九万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告主張の請求原因事実については当事者間に争いがないから、以下被告の抗辯について判断するに、被告の主張する抗辯の要旨は、第一に本件手形は被告が訴外三旺金属株式会社に金融を得させるため、同会社から被告あての約束手形二通と引換に振出したものであるところ、原告は本件手形が右に述べたような事情により振出されたものであることを知りつつこれを譲受けた。いわゆる悪意の取得者であるから、被告に対しその支払を請求し得ないというにあり、第二、原告は、訴外三旺金属株式会社が前述のとおり本件手形と引換に被告に対して振出した約束手形二通の支払につき手形外において保証をしたにかかわらず、右手形二通の支払が右会社によつて拒絶されたのに自らの保証債務を履行しないから、本件手形の支払を請求し得ないというにある。

しかしながら第一の主張は、それ自体理由がないといわなければならない。即ち他人の金融の便宜のため振出される約束手形いわゆる融通手形は、被融通者をしてその手形を利用して金融を得又は得たと同一の効果を受けさせようとして振出されるものであるから、その振出人はこの手形が転輾して被融通者以外の者に取得された以上、その所持人に対して手形上の責任を負わなければならないことは当然である。融通手形の振出人において、その支払を拒絶し得るのは、被融通者からその手形の支払が請求された場合に限るのである。そしてかかる手形につき被融通者以外の所持人から請求がなされた場合に振出人において支払を拒絶し得ないのは、その所持人が当該手形の融通手形であることを知つてこれを取得したかどうかにかかわりないものというべきである。

そこで前掲第二の主張の当否について考えるに、被告が本件手形を振出すに当りこれと引換に訴外三旺金属株式会社から振出を受けた被告主張の二通の約束手形について、原告が手形外において保証をしてとの事実に関しては、後掲証拠に照して当裁判所の措信することを得ない被告代表者西郷里久男の尋問の結果以外にこれを認めるに足りる証拠がない。かえつて証人倉重亮、秋山幹男及び清水俊郎の各証言により、右の如き事実のないことが認められるので、被告の右主張もまた採用するに由ないものというべきである。

叙上のとおりであるから、原告の請求を認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲)

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